冬山登山から考える災害時の低体温症予防

2007年末の雲取山、外は氷点下。
テント内で翌日の行程を確認中の中学生。

元日におきた能登半島の地震で被害を受けたみなさまに心からお見舞い申し上げます。
いまなお救出を待つ方々はもちろん、避難所にいらっしゃる方々にとっても、1月の低温は危機になります。

ひとは「恒常性の維持」機能によって、ふつうは体温が36℃前後です。
しかし、外部の環境によって体温が下がったまま回復せず、生理的に不具合が生じるのが低体温症です。
では、体温が何℃くらいに下がると「恒常性の維持」機能を失って危険をはらむのでしょうか?

答えは「深部体温」で35℃以下です。
深部体温は脇の下に挟んだ体温計などで測る体温よりも1度くらい高いのがふつうですが、深部体温を測る方法は、シロウトがおいそれとできる方法ではないので、低体温症の予兆として次の初期症状を見逃さないようにしたいです。

・寒さを訴えて震えが出始める
・指の動きが悪くなる → 細かい作業ができなくなる
・動作が緩慢になったりぎこちなかったりする
・歩行でよろける
・うわごとをいう

これらの症状がみられたら、検診が急務です。

この季節に低体温症になる方々の7割が室内で発症、そのうち8割がシニアの方だそうで、現在の能登地震の避難所での状況に似ていると思われます。

▼低体温症の予防

・からだをぬらさないようにする。
・ぬれても暖かい素材(羊毛や化学繊維)の下着をつける。
・頭部と臓器がある体幹部をとくに冷やさないようにする。
 →スキー帽のような帽子(ビーニー)やフリースのベストなどを着用する。
・大血管がとおる首、上腕、鼠径部を冷やさないようにする。
 → スカーフや適当な下着などを着用する。
   腋の下や股の間をカイロや湯であたためる。
・温かい飲み物、食事をとる。
 →エネルギーを摂りつづける。
・風を防げる雨具やパーカを着用する。
・無理しない。
 →焦ると余分なエネルギーを消耗し続ける。

冬山だと、外気マイナス10度以下、テント内気温は外気+10度くらいの環境で数日間過ごしたりしますが、そんな状況でも低体温症にならないのは
・しっかり保温できる衣類の着用。
・カロリーが高くて温かい食事を随時とる。
・テント内は床からの冷えをマットで遮断する。
・テントは小さな空間なのであたたまりやすい。
などの対応や条件が効果を出していると思えます。

▼低体温症の進行と注意点
危険時:強い疲労感がある、思考力が低下してくる、動きが雑になってくるなどの症状が出始めたら注意。
疲労と症状が似ているのですが、客観的にみて
・唇の色が紫
・顔が白けてきた
・手が冷たい
などがみられたら、協力して対処を図りましょう。

緊急時:もっと症状が進むと、ガタガタ震えてくる。歩けなくなる。震えがなくなり、意識不明になる。

▼対応
危険時 要救護者の自力回復を援助
・さらなる保温に努める。
・局所的に気温をあげた空間を用意する。
・衣類がぬれていれば乾いているものに着替えさせる。
・温かい飲み物を飲ませる。
・わきの下、股の付け根などを携帯カイロなどで温める。
 やわらかい水筒類に湯を入れてあたためてもよい。
 →タオルで巻いてからだに伝わる熱をおだやかに。
緊急時 すみやかに外部に救助要請、搬送・脱出
 医療機関での手当が必要。 保温してできるかぎり体を動かさぬよう搬送。

とくに危険時における判断と対処がたいせつ。